こんにちは、ゆのん(id:yunon_phys)です。この記事は Akatsuki Advent Calendar 2019 10日目の記事です。
エンジニア組織の成長のために大切にしている2つの事柄
アカツキのエンジニア組織は2~3年かけて成長していく状態を目指しています。 そしてその成長のためには、情熱と技術の積み上げが大事である、と考えています。
1. 情熱という感情を大切に扱う
アカツキでは、情熱を持って仕事をしている状態を称賛します。 というのも、その人の想いが込められたプロダクトは明らかに完成物のクオリティが高くなりますし、よりクオリティを上げるためのいかなる努力も惜しまなくなり、結果として人も組織も成長すると考えているからです。
情熱というのは大きな野望である必要はありません。 その人が心からやりたいと思っているものであれば、その情熱の炎に大きさは関係ありません。 個人としてはその炎に絶えず薪をくべて大切に育てて欲しいですし、 組織としてはその炎が消えないように他からガードし、時には燃料の供給となるようにその機会を与えられるよう支援します。
2. 技術の積み上げを称賛する
技術はある日突然飛躍的に進歩するものではありません。 必ずその背景には様々な技術があり、地道な努力だったり、挑戦の結果の証として、今の技術が成り立っています。 アカツキのプロダクトにおいても同じように技術の積み上げで成り立っています。
代表的な例を上げると、ゲームの運用技術の積み上げです。 他のゲームで採用したアーキテクチャやSaaSをそのまま使えるところは使い、もっとこうすれば良かったというところは改良していきます。 マスターデータやアセットの管理方法も、過去の成功や失敗を元に、プロダクトにとってベストなやり方を短期間で検討出来るようになりました。
0から1を生み出す独創的なアイデアを持って課題解決出来る人はもちろん素晴らしいですが、 1を100にするために技術を積み上げられる人も組織では重要な役回りです。
アカツキのエンジニア組織の成長モデル
では、情熱と技術の積み上げがどのように組織の成長につながるのでしょうか。 以下に、アカツキのエンジニア組織がどのように成長していくかを図示します。
ここでいう"良いプロダクト"とは、高い売上のあるプロダクトだけを意味しておらず、
- 会社の幅を広げるプロダクト
- 会社の将来の柱となるような技術を活用したプロダクト
- システムが安定しているプロダクト
- 熱狂的なファンがついているプロダクト
などもひとくくりにして"良いプロダクト"と言っています。
では、これらのサイクルがうまく回るように、アカツキのエンジニア組織はどのように担保しているのでしょうか。 上記のサイクルを一つずつ分解していきましょう。
情熱はチャレンジを生む
情熱を持った人は、自分に対して、組織に対して、あるいは世界に対して新しいチャレンジをします。 その熱い気持ちが逃げないように、以下のような施策で担保しています。
メンバーのWillを活かすアサイン
新卒エンジニアの配属や異動は、本人がこのチームに行きたい・この技術を使いたい、というWillを大事にします。 というのも、やりたいことをやっている状態は、最もパフォーマンスが出て結果バリューにつながると信じているからです。
異動を希望してきた場合は、今ある業務との兼ね合いもあるので、どうしたら今の業務を切り離せるのか、 誰にいつ業務を引き継ぐのか、何を自動化して業務を減らすのか、などを丁寧にすり合わせします。 また、いつ新しいチャレンジをしたいという気持ちになるかもわからないので、常に自分の業務を他の人に渡せるように行動しよう、というのは目標設定時に私から伝えています。
少額投資プロジェクトの推進
アカツキでは、少額の範囲であれば、役員の承諾不要でプロジェクトを立ち上げられるようになっています。 実際に、新卒のエンジニアが企画・デザイン・開発・検証・他社とのコミュニケーションまでを一人で行い、カジュアルゲームをリリースに挑戦するというのを過去に実施したことがあります。 先輩社員がサポートする場面も勿論あるのですが、業務命令でではなく、情熱によるチャレンジを後押ししたくてサポートしている例が多いです。 そういう意味で、情熱は伝播していくものなのかもしれません。
チャレンジは新しい知見を生む
チャレンジをして成功したのであればそれは成功体験として勿論新しい知見になりますが、一方で、成功ばかりではなく失敗もあります。 その失敗をただの失敗で終わらせるのではなく、そこから学びを得て新しい知見にするために、失敗を財産にする文化があります。
失敗を財産にするために、ポストモーテムを実施する
これまでアカツキも様々なプロジェクトで失敗してきました。 この失敗の度に何が問題だったのかを議論し、時にはそのときの感情もシェアしながら、次のプロジェクトや、既存のプロダクトに活かそうとしました。 それらの共有があったからこそ、他のプロジェクトでも危うく同じ失敗を繰り返しそうになったが防げたケースを何度も見てきています。
新しい知見は良いプロダクトを生む
過去の失敗経験や、ベストプラクティス、新技術などは良いプロダクトを生むために欠かせないですが、それを下支えするのが心理的安全性です。 心理的安全性が無いと、誰でも気軽に意見が言えなくなり、良いプロダクトが生まれづらくなってしまいます。 その心理的安全性をエンジニア組織が担保しているのが、フラットな組織づくりとHRTです。
フラットな組織づくりで上司をつくらない
上司や部下という言葉を徹底的に排除し、序列を作らないようにしています。 もちろんリーダーやマネージャーというのは存在はしますが、それはあくまで役割であって、上司と位置づけていないです。 CTOやVPoEも偉いわけではなく、あくまでその役割を全うするために権限・責任を行使するだけです。*1
HRTを共通言語にする
HRTという言葉は謙虚(Humility)、尊敬(Respect)、信頼(Trust)の頭文字を取った略で、Team Geekの中で出てくる言葉です。
Team Geek ―Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか
- 作者:Brian W. Fitzpatrick,Ben Collins-Sussman
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2013/07/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
謙虚(Humility): 世界の中心は君ではない。君は全知全能ではないし、絶対に正しいわけでもない。常に自分を改善していこう。
尊敬(Respect): 一緒に働く人のことを心から思いやろう。相手を 1 人の人間として扱い、その能力や功績を高く評価しよう。
信頼(Trust): 自分以外の人は有能であり、正しいことをすると信じよう。そうすれば、仕事を任せることができる。
アカツキのエンジニア組織ではこのHRTをもった行動が取れることを、現場で働くための最低限の条件にしていて、評価制度の中に組み込んでいます。
良いプロダクトは会社の魅力を上げる
良いプロダクトが生まれていくと、会社の魅力が上がっていきます。 しかしそれだけではどのような技術を使っているのか、どのような人が働いているのかはわからないので、社外発表(技術プレゼン)を推進しています。*2
社外発表を通してプロダクトと会社の魅力を伝える
2019年は、Erlang & Elixir Fest 2019、AWS Summit Tokyo 2019、CEDEC 2019、Google Cloud Next '19 in Tokyo、GDC 2019、SIGGRAPH2019、XR Kaigi 2019等でアカツキから登壇しました。
技術の活用方法を公開すると、他社もそれを参考にして技術に磨きがかかり、さらにその技術をまたアカツキが参考にして・・・というループが回っていくので、これからもアカツキの使っている技術をどんどん公開していきたいところです。
会社の魅力が上がると、新しいメンバーが入ってくる
会社の魅力を上げると新しいメンバーが入ってきやすくなりますが、組織としては魅力を伝え続けること、そしてそもそも今現在組織が魅力的なのかを検証する必要があります。 そのためにやっているのが、スポンサーとリファラル採用です。
スポンサーでコミュニティに還元する
2019年は、RSGT 2019、RubyKaigi 2019、Ruby Association、builderscon tokyo 2019、Unite Tokyo 2019、DevLOVE X、THE LINUX FOUNDATION、CLOUD NATIVE COMPUTING FOUNDATION、VimConf 2019、Rails Girls、技術書典6、技術書典7、EOF2019、CODE BLUE @TOKYO、XR Kaigi 2019、Wandboxにスポンサーをさせていただきました。
アカツキのお世話になっているOSSやコミュニティに幾分かご支援出来たことは光栄です。
リファラル採用を活用して組織の健康診断をする
リファラル採用は2016年度頃から積極的に開始し、今では全体の約20%程がリファラル採用です。 リファラル採用は既存メンバーが会社に対してポジティブな感情を抱いていないと成り立たないので、会社が本当に魅力的であるかを検証するのに格好の材料です。 急にリファラル採用の紹介件数が減るようになると、それは会社の魅力が落ちているサインかもしれないです。
新しいメンバーが入ってくると、また新しい情熱の波がやってくる
新しいメンバーはモチベーションが高い状態で入ってくるため、新しい情熱が会社に入ってきます。 このモチベーションからの情熱、そしてその後のチャレンジにつなげるために必要なのが、面接でのコミュニケーションだと考えています。
面接からオンボーディングは始まっている
面接は企業側が評価する側、候補者側がされる側という関係性になりやすいですが、お互いに評価される関係性である、と捉えるようにしています。 特に、やりたいことが会社で出来るのか、挑戦機会を組織が与えられるのか、期待値がお互い適切なのか、等を面接時点から可能な限り丁寧に擦り合わせます。
新しい知見を組織として積み上げる
新しい知見がプロダクトやプロジェクトにすぐに活かせるとは限りません。 その知見を自分の中や特定のチームに留めておくのではなく、組織として積み上げる必要があります。 そこでアカツキのエンジニア組織が用意している制度が、社内コミュニティ制度です。
社内コミュニティ制度が横の連携を強くする
アカツキは伝統的にプロダクト同士のエンジニアの交流が浅いという特徴を持っていました。 このため、プロダクトチーム内では知見が溜まっているが、その知見が組織全体に溜まっている状態ではありませんでした。 そこで、今年の夏頃より、社内コミュニティ制度を立ち上げました。 この制度は、エンジニア組織が社内コミュニティのある種スポンサーとなり、プロダクトチームの枠を超えた技術交流の活性化を図ったものです。
具体的には、以下のような補助を整備しました。
- ランチ/ディナー補助
- ツール/物品購入補助
- 勉強会/カンファレンス参加補助
- 強い人を呼ぶときの講演費用補助
残念ながらまだこれらが積極的に活用されている、という状態ではないですが、時間をかけて活性化していければいいなというところです。*3
技術の積み上げは情熱を巻き起こす
技術をある程度個人で積み上げていくと、既存のプロダクトでは満足しきれなくなり、別のプロダクトでその培った技術を使って課題解決したい、という情熱を向けてくるメンバーがいます。 それを強くてニューゲームと表現をしたりします。 積み上がった技術にチームの変化が掛け算されると、新しい情熱を生むと考えていて、異動を重要な組織施策だと考えています。
組織を常にアップデートし続ける
現在のアカツキのエンジニア組織が何を考え、どのように運営しているかを述べました。 一人の情熱からスタートして、技術が積み上がり、また情熱に還ってくるというのが現在の成長モデルです。 元からこのモデルを描いていたわけではなく、こうしたらもっと良くなるんじゃないか、何が成長の起爆剤なのかの思考実験を繰り返していった結果です。 数年後には今のままでは足りない部分を補強する施策が出来ているでしょうし、あるいは全く異なる成長モデルを作っているかもしれないです。
重要なのは組織をアップデートし続け、変化に適合していくことです。 失敗したらふりかえってまたやり直すよう向き直れば良いだけです。 こういった組織づくりをすることそのものが組織としての積み上げであり、これを書いている私の情熱でもあります。