Akatsuki Hackers Lab | 株式会社アカツキ(Akatsuki Inc.)

Akatsuki Hackers Labは株式会社アカツキが運営しています。

ボトルネックマネージャーを抜け出す方法

こんにちは、ゆのん(id:yunon_phys)です。この記事は Akatsuki Advent Calendar 2020 の12日目の記事です。

アカツキは10周年を迎え、それと同時に経営体制が一新され、経営チームExecutive Leadership Team(ELT)が結成されました。 経営戦略の基本方針も変更となり、社内の構造的にも社内の方針としても、アカツキにとって大きな変化のある1年となりました。

私もELTのメンバーとして現在主力であるゲーム事業の職能組織を束ねる立場(Chief of Staff, Games / CoSG)となり、影響の範囲も、責任の範囲も大きく拡大しました。 これまでは、私はVP of Engineering(VPoE)としてエンジニア組織を束ねる立場にあり、一つの職能のことだけを考えておけば良かったです。 しかし今では、エンジニアだけでなく、デザイナーや企画職・QA・マーケターなど、様々な職能を理解し、文字通り全ての人が輝けるように組織を作る必要が出てきました。 昨年の私の個人的なブログで、エンジニア組織だけでなく全体的に良くしたいという記事を書きましたが、1年後にまさかそれが出来る立場になるなんて、未来のことはわからないものですね。

この新しい役割になって、どんな組織を作っていくのか、ご興味のある方は以下のインタビュー記事を読んでみてください。 voice.aktsk.jp

・・・さて、前置きが長くなりました。 CoSGになったという話をしてきましたが、実はVPoEを今も兼任しています。 兼任と言うと聞こえは良いですが、同時に業務をやれるわけではないので、どうしても責任範囲の大きいCoSGの業務が優先されてしまいがちです。 しかし、VPoEとしての業務が無くなるわけではないので、自分がボトルネックになってしまっているのが次第に浮き彫りになってきました。

今回の記事は、そんなボトルネックになってしまったマネージャー業をどうやって抜け出そうとしているのか*1、この1年の取り組みを書いていきます。

Engineering Manager(EM)が同じ情報を持てるようにする

以前はプロジェクトに直接入ったり、1on1する頻度も高く設定していたので、様々なエンジニアに関する情報を自分に集約して様々な意思決定できていました。 しかし、CoSG業が多くなり、エンジニア以外の情報が増える一方で、エンジニアの情報が減っていってしまいました。 特に困ったのが異動・配属で、発生する度に情報をかき集めて、そこに所属しているEMや他のリーダーと交渉して、といったことに追われるようになってしまいました。

この状態を脱却しようと、一度立ち止まって何が問題なのか考えたところ、私に情報を集めようとしている行動そのものが良くないことだと気が付きました。 例えば、異動・配属については、プロジェクトの短期的な課題解決として実行する場合もあれば、中長期的な会社戦略を見据えて実行する場合もあります。 これらを広い視点で実行するためには情報を正しく持っていなければいけない、と思っていました。 しかし、そもそも情報を正しく持っているのが自分だけの状態になっているのが問題でした。

私の信念としては、「同じ情報を持っていれば、全員が同じ意思決定にたどり着く」、です。 裏を返すと、全員が同じ意思決定にたどり着くためには、同じ情報を持っていなければならないということです。

そこで、私に集まってくるエンジニアに関する情報や会社の方針情報などを、可能な限りEMに共有するようにしました。 具体的には、月1回全EMが集まる場を設け、そこで共有しながら、EMの意見を出し合うようにしました。 また、全EMにはそれぞれの抱えているプロジェクトの情報や課題などを共有してもらうようにしました。 全EMが同じ情報を持っている状態を一応は出来たことになります。

これでうまくいくと思ったのですが、残念ながら、私の満足いく結果にはなりませんでした。 それはEMに与えられている権限・責任が適切でなかったからです。 権限・責任が適切でなかったために、EMが自発的にやれる領域を狭めてしまっていました。 そこで、権限・責任を適切に委譲する作業に取り掛かりました。

適切な権限委譲をする

私は適切な権限委譲こそ組織を次の段階に成長させるために、重要な要素だと考えています。 オレンジ組織からグリーン組織のブレイクスルーの一つは権限委譲である、と以下の書籍でも書かれています。

過去には私とCTOとの間でManagement3.0のプラクティスの一つであるDelegation Boardを作りました。*2

hackerslab.aktsk.jp

今回も同じ方法で私と全EMが集まり、Delegation Boardを1日がかりで作成しました。 私はDelegation Boardの結果も大事だと感じてますが、それ以上にそれを決めていく過程こそ意味があると思っています。 実際にこれを作っていく過程でDelegation Levelが一致せず、お互いの想定している権限やそれに伴う責任を丁寧に言語化していきながら、時間をかけて一つ一つ対話していきました。 最終的に出来たDelegation Boardは全員が満足いく結果になりました。

Delegation Boardを作ってから、明らかにEMの動きが変わりました。 何を自分たちがやるべきなのか、どんな責任を持っているかが明確になることが、ここまで強力なのかと改めて理解できました。

EMのサポートを手厚くする

ここまででは、私の負担が下がり、EMへの負担が上がる一方です。 ある意味望んだ結果ではあるのですが、それはあまりに不公平な感じがします。 もし私が逆にEMの立場だったら、今までやったことの無い仕事が増えてしまうので、戸惑ってしまうだろうなと思いました。

そこで、EMの業務をよりサポート出来るように、 @noto さんに各EMの1on1を依頼しました。 @noto さんは私とは違う観点で人と向き合ってくださる方で、とても信頼のおいている方です。 EMの悩みに適切な距離感でアドバイスしたり、聞き役に徹してくださっているようで、早い段階でEMの悩みに解決に向けて動けていってると感じてます。

@noto さんのように第三者的なEMのサポートは、僕のように全てをケアしきれないときに、とても心強い存在です。

何が変わったか

これらの活動により変わったことは、主には以下の通りです。

  • 全エンジニアの状況の見える化シートが自発的に作られ、EM全員でメンテするようになった
  • エンジニアの異動・配置をほぼ私なしで進められるようになった
  • ダイレクト・リクルーティングを私なしで進められるようになった

これまで、自分が記録ではなく記憶にいかに頼りすぎていたのだろう、と感じさせられてしまいました。

これらの業務が自分の手元から離れていくことで、より事業の戦略・戦術の策定に落とし込む時間が増えてきました。 まだまだ自分がボトルネックになっていることはたくさんあるとは思いますが、少しずつでも解消していけるよう工夫していきます。

*1:兼任は続いているので、ボトルネックになっている事実は払拭できていない

*2:Delegation Boardは強力で、これを作る過程とそれによる情報の透明さからすっかり虜になってしまいました。それ以来、社内で何かと権限委譲について語る場面が増えて、Delegation Board作成のファシリテーションを何度もしたことがあります。